グルタミン酸は哺乳動物の中枢系での代表的な神経伝達物質として記憶や学習など高次の脳機能を司っている。グルタミン酸作動性神経終末にはグルタミン酸を貯蔵したシナプス小胞が集まっている。細胞内でのグルタミン酸の輸送・濃縮を担うのが小胞性グルタミン酸トランスポーター(Vesicular Glutamate Transporter ; VGLUT)であり、2000年にクローニングにより実体が明らかにされた。これまでに4-methylglutamic acidやtrans-ACPDがVGLUT阻害活性を持つことが明らかになっている。しかしこれらの化合物はグルタミン酸受容体やシナプス性グルタミン酸トランスポーター(EAAT)にも活性を持つ。また、細胞内で作用するためには、細胞膜を透過する必要がある。我々はVGLUT選択性の向上・活性強度の向上・細胞膜透過性の向上の三点を目標として、traps-ACPD誘導体を合成することを試みた。今年度はtrans-ACPDの五員環上に置換基を導入することで活性の向上を目指すこととした。まず置換基の位置と立体配置を知るために、5S体、5R体、4S体、4R体の4種のメチル誘導体を合成することとした。合成経路はL-セリンを出発物質とし、Hornar-Emons反応で必要な炭素鎖を延長し、カルベンの分子内挿入反応を鍵として五員環を構築した。得られた誘導体のうち5R体が単離したシナプス小胞へのグルタミン酸取り込み阻害活性を維持していた。活性はtrans-ACPDよりやや弱いものの、この位置の置換基は容認されていると判断した。われわれはEAAT阻害剤において、かさ高い置換基が活性を向上させることを経験しているので、次に水酸基をこの位置に導入しエーテル化により様々な置換基を導入することとした。現在ベンジルエーテル体を合成し活性を測定中である。
|