グルタミン酸は哺乳動物の中枢系での代表的な神経伝達物質として記憶や学習など高次の脳機能を司っている。グルタミン酸作動性神経終末にはグルタミン酸を貯蔵したシナプス小胞が集まっている。細胞内でのグルタミン酸の輸送・濃縮を担うのが小胞性グルタミン酸トランスポーター(Vesicular Glutamate Transporter; VGLUT)である。従来の阻害剤はグルタミン酸受容体やシナプス性グルタミン酸トランスポーター(EAAT)にも活性を持つ。また、細胞内で作用するためには、細胞膜を透過する必要がある。我々はVGLUT選択性の向上・活性強度の向上・細胞膜透過性の向上の三点を目標として、trans-ACPD誘導体を合成することを試みた。置換基の位置と立体配置を知るために合成したメチル置換体のうち、5R体が活性を維持していたので、次いで置換基の種類を検討するために、この位置に水酸基を導入し、エーテル置換基の種類を調べることとした。メチル体と同様に、ケトンから調製したアルキリデンカルベンの環化によるルートをベンジルオキシ体に適用したところ、目的の五員環構造が得られなかったので、保護基の検討を行い、現在合成を進めているところである。また、細胞膜透過性向上のために、trans-ACPDのγ一カルボン酸をメチルエステル化したところ、エステル体(ACPD-OMe)は単離した小胞では取り込み阻害を示さなかったが、シナプトゾームを用いたアッセイでは、小胞への取込を減少させた。一方trans-ACPDはシナプトゾームでは効果がなかった。これらの結果は、ACPD-OMeがシナプス膜を透過した後に酵素によりシナプトゾーム内でtrans-APCDを再生し、小胞への取込を阻害しているためと考えられ、カルボン酸の修飾による透過性向上という方法論の有効性を示すことができた。
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