研究概要 |
北極域のコケから分離された数種の土壌糸状菌について同定を行い,酵素産生能を調べた.まず,スバールバル諸島スピッツベルゲン島のコケから分離されたTrichoderma属菌を,培養形態とrDNA ITS領域の塩基配列からT.polysporumと同定した.一般に,Trichoderma属菌は,植物遺体の分解菌として知られており,そのいくつかの種は,様々な分解酵素を産生することが知られている.そこで北極分離株である本株の酵素産生能を調べた.本菌をビート抽出液培地で培養し,その培養液中の上澄を用いて7種類の多糖類に対する酵素活性を調査した.その結果,本菌はキシラナーゼとポリガラクチェロナーゼを産生することが明らかとなった.また,キシラナーゼについてはさらに温度別活性調査を行ったところ,0℃での活性が至適温度での活性の20%に達した.このことは,低温でのキシラナーゼ活性が高いことを示しており,本株が低温酵素を産生している可能性が示された.T.polysporumは温帯にも生息する。そのため,今後,温帯産の同種との比較実験を行い,北極産の株の特性を明らかにする予定である.次に,グリーンランドの東沿岸部で採取されたコケからPythium属菌47株を分離し,上述と同様の方法で同定し,酵素産生能を調べた.その結果,グリーンランドのPythium属菌は新種の2種に類別された.キシラナーゼなどの産生は認められなかった.さらに,スピッツベルゲン島に自生するムカゴトラノオに発生する黒穂病菌の同定を行った.
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