研究概要 |
北極域のコケから分離される主要な土壌糸状菌であるPythium属菌の凍結耐性を調べた。極地から分離されるPythium属菌の多くが単独の菌株では有性器官を形成せず,無性繁殖器官のhyphal swelling(以下,HS)を多数形成する。そのため,HSは極地での本属菌の伝搬や低温環境中での生存のための主要な器官となっていると考えられる。一方,温帯産の同属菌のHSは一般に耐凍性は低い。そこで,HSを形成しその形態が互いに類似する極地産と温帯産の2種のPythium属菌のHSを単離し,凍結耐性を比較した。材料として,北極のスピッツベルゲン島産のPythium sp.と,三重県産のPythium splendensを用いた.これらのHSを-25℃で2時間凍結後,25℃で1時間融解し,この処理を1〜3回行い,その後の再生率を調べることによって,凍結耐性を評価した。その結果,Pythium sp.のHSは2回の凍結処理後も50%以上の高い発芽率を示す一方,P.splendensのHSは1回の凍結処理で発芽が確認されなくなった。これに対し菌糸は,両種とも一回の凍結処理で伸長しなくなった。これらの結果より,北極産のPythium sp.は,温帯産P.splendensよりもHSの凍結耐性が高いことが明らかになった。このような凍結耐性が極地のPythium属菌に普遍的な性質かどうかを,極地から熱帯までの様々な異なる地域から分離された同属菌を用いて比較することによって,今後明らかにする予定である。 上述の実験に加え,北極の主要植生の1つである多年生草本のムカゴトラノオに寄生する黒穂病菌について,スピッツベルゲン島に生息する同病原菌の野外調査を行い,菌種の同定と宿主生存に及ぼす影響を明らかにした。
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