研究概要 |
本年度は,北極から分離された土壌糸状菌のTrichoderma属菌とPythium属菌について,同定と酵素産生能の調査を行った. Trichoderma属菌は極地を含む世界各地に分布している.また,本属菌には有用な酵素を産生するなどの有用微生物が多く含まれており,生物資源として注目されている.T.polysporumは生育速度が遅い本属の1種であり,セルラーゼやペクチナーゼなどの細胞外酵素を産生することが知られている.本種のスピッツベルゲン島での分布は知られているが,北極生息性T.polysporumの分子系統学的解析と生理的性状は明らかではない.そこで,ここでは2002年にスピッツベルゲン島から分離されたT.polysporumを供試菌とし,rDNA-ITS領域を用いた分子系統学的解析,細胞外酵素の産生能およびその一部の酵素の低温活性の調査を行った. 2002年8月,スピッツベルゲン島のBarentsuburgとLongyearbyenで分離されたT.polysporum6菌株を用いた.これらの菌のrDNA-ITS領域は,既存のT.polysporumと高い相同性(>97%)を示した.次に,酵素産生能を調査したところ,テンサイ抽出液体培地上でキシラナーゼとポリガラクツロナーゼを産生した.これらのうちポリガラクツロナーゼを精製し,その温度別活性を検討した.その結果,40℃において最大活性を示し,0℃においても最大活性の47%の活性を有した. これらの結果から,スピッツベルゲン島に分布するT.polysporumの種同定が分子遺伝学的に確認された.また,北極生息性T.polysporumが低温活性酵素を産生していることが明らかとなり,北極生息性T.polysporumの生物資源として利用の可能性が示された. 上述の実験に加え,グリーンランドのコケから分離された土壌糸状菌の同定を試み,Pythium属菌の1種と同定した.
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