平成16年度は本プロジェクトの初年度として、ベトナムにおける「戦争の記憶」に関して、特に「公的記憶」に関わる部分の資料収集と研究に重点をおいた。資料収集については、主に軍人、とりわけ高級軍人の回想記が多く出版されていることもあり、これらの類が収集の中心となった。下級兵士や一般の人々の戦争回想記が出版されていることは皆無ではないが、数はごく少ない。2004年はディエンビエンフーの戦勝50周年ということもあってディエンビエンフー関係のものがとりわけ多く出版されたことと、カンボジア紛争関係のもので、グエン・ヴァン・ホン大佐の『強いられた戦争』が出版されたことが注目される。『強いられた戦争』では、カンボジア戦線において、ベトナム軍の犯した失敗や欠点をも率直に描いていることが注目される。以上のような単行本のほかに、退役軍人会の機関誌『退役軍人』のバックナンバーを購入した。若干、欠落もあるが、ほぼ創刊号から現在にいたる号を収集できた。ベトナムの退役軍人会は1989年12月に設立が決定されたが、機関誌『退役軍人』の記事を通して会の規模の変遷、活動内容、政治的役割などを分析していくことを予定している。ドイモイによる経済発展が本格化する1990年代に入って、退役軍人会設立であるとか、さらには1994年の「英雄的ベトナムの母」の制定といった戦争功績者の組織化が進められるようになっていることがわかる。「公的記憶」を形成する重要な部分である歴史教科書については、1991年版の改定が進行中で、近現代史の部分については未改定であるので、具体的検討は平成17年度以降に持ち越したい。ただ、歴史認識において、たとえば1945年のいわゆる「200万人飢饉」も以前はすべて日本の責任のようにいわれていたが、最近は少し変わってきたようである。平成16年12月にベトナムに出張し、中越国境のランソンで聞き取り調査を行なった。日本軍に服務していた2人のベトナム人にインタビューすることができた。
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