本研究は、科学技術の社会学・人類学が培ってきたアクター・ネットワーク論を地域研究に援用し、地域における出来事や事象を、人、モノ、言葉(記号)のネットワークとしてとらえ、それらを動態として記述・分析する。ここでは、これまで本研究の研究代表者と研究分担者が個別に関わってきた開発(足立、スリランカ)、在地の技術(安藤、バングラデシュ)、基地(平松、沖縄)の事例研究を、アクター・ネットワーク論的に再構成することで、地域研究におけるアクター・ネットワーク論的な展開の可能性を個別・具体的に明らかにする事を目的とする。 本年度は、まず、アクター・ネットワーク論に関する基本的な共通認識を得るために、7月に第1回研究会を開催し、方法論的な検討を行った。また、具体的な調査資料を基に、開発(足立)、在地の技術(安藤)、基地騒音(平松)に関してどのようなアクター・ネットワーク論的展開が可能かを、3回に分けて検討した。また、研究協力者の内山田康によって、ヒンドゥー寺院における神とモノの関わりの変容に関してアクター・ネットワーク論的な議論が行われた。 これらの議論を通して、アクター・ネットワーク論の文理融合的性格が明確になってきた。しかし、同時に、このメタ方法論によって、どのような新たな知見が見いだされうるかは、モノと人の相互作用に関する既存の研究(たとえば、環境心理学、認知科学)を組み込むことをしない限り、枠組み倒れになってしまうことが判明してきた。次年度は、このような観点から研究の展開を図ることになる。
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