先住民宣教師サムソン・オッカムと親交のあった黒人詩人、フィリス・ホィートリーについて考察し、新英米文学会の12月例会において、「Phillis Wheatleyのテクストを読む」という口頭発表を、12月10日、早稲田奉仕園にて行った。ホィートリーについては、18世紀の英詩の影響を強く受けており、黒人詩人としては独自の民族的な詩を創造することはできなかったというのが、従来の評価であった。それに対し最近では、ホィートリーの詩に黒人としての自己意識に基づく黒人的視野を読みとる研究が行われている。本発表もそうした立場からの考察である。ただ、黒人としてのホィートリーに注目して、奴隷制という背景のみが取り上げられる傾向があったが、本稿では新たに先住民オッカムと並べることで、18世紀ニューイングランドのキリスト教圏における非ヨーロッパ人の改宗の例として、また独立戦争といったアメリカ的背景の中に捉えることができ、ホィートリーの自由への願望、自立などが明瞭になった。また、詩そのものについても、従来指摘されてきた古典主義の影響よりも、ロマン主義に近い、想像力の飛翔をみることができるように思われることに、本稿では注目した。詩形はヨーロッパのものであっても、詩を通して、周縁的な存在からヨーロッパ文化人と対等な自由を謳歌することができたのではないだろうか。このロマン主義的傾向については、さらに18世紀および19世紀の英詩の研究を踏まえて、実証したい。 論文として発表したものとしては、1990年代のアメリカ主流社会と黒人の対立をめぐる考察であり、ギャングスタ・ラッパーを通しての、現代の黒人をめぐるアメリカ人種問題への考察である。60年代の公民権運動以後においても、ハリケーン、カトリーナが明らかにしたように、いまだに黒人が社会的に貧困、犯罪、暴力、殺人などに取り囲まれる不遇を強いられている状況が窺われた。
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