自由、平等、人権(特に女性や異教徒の人権)などに関する西欧的な「普遍的」価値観とイスラームの伝統的価値観の衝突は、西欧諸国などの非イスラーム世界において起きているのみならず、イスラーム教国内部においても、政治の動向を左右する重要な要素として作用している。イスラーム教国は一般に、政治制度が非民主的であり、西欧的なジェンダーの主流化には消極的であるといわれるが、世界最大のイスラーム教国インドネシアでは、1998年に民主化運動により政変が起こり、その後、中央政府によってジェンダー主流化政策が進められている。しかし一方で同国においては、2000年以降、地方政府レベルでイスラーム法を施行する動きが少なからず見られる。すでに施行されているイスラーム法の内容には、女性の自由や人権に制約を課すものも少なからず見受けられ、イスラーム法施行には反対の声も少なくない。本研究は、こうしたインドネシアにおける近年の動向に注目し、イスラーム的要因が同国の民主化やジェンダーの主流化のプロセスとどのように関連しているのかを明らかにすることを目的とするものである。 平成16年度は、民主化やジェンダー主流化を牽引しているのがどのような社会集団であるのか、またイスラーム法施行の政策決定過程にどのような社会集団が関わっているのかを明らかにするため、官僚、政党関係者、NGO関係者、教育関係者などを中心にインタビュー調査を実施した。また地方におけるイスラーム法施行の動きが、どの程度民意を反映した政策であるのかを検証するため、住民を対象としてイスラーム教義解釈・教義の実践状況・性別役割などに関する意識調査を面談式のアンケート調査を実施すべく、予備調査を実施した。予備調査においては、アンケート内容の妥当性の確認、調査実施地域の選定、サンプリング方法の確定、協力者の確保、実施時期と方法について、協力者と打ち合わせを行った。
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