本研究は、現代インドネシ社会においてイスラム的要素が同国の民主化やジェンダー主流化とどのように関連しているのかを明らかにすることを目的とするものである。 現代のほとんどのイスラム諸国において、民主化とジェンダー主流化のプロセスは遅れがちである。しかしインドネシアにおいては、1990年代前半よりリベラル派イスラム勢力が、女性に対して抑圧的な法規定を含むイスラム法の再解釈を試み始めた。さらに同国政府は2000年にジェンダー主流化政策を打ち出し、ジェンダー・バイアスな法規定の見直しを開始した。しかしながら、1998年の政変以降の民主化プロセスは、イスラムの保守的で原理主義的な勢力の成長を促した。地方分権化のプロセスとともに、中央政府は多くの地方政府がイスラム法的ニュアンスを含む条例を制定することを許した。そして現在、ジェンダー平等を目指す改革的なリベラル派イスラム勢力が、保守的なイスラム法を確立しようとする保守的で原理主義的なイスラム勢力と敵対する状況が存在している。 社会学的現地調査の結果、都市部と農村部、そして近代派イスラムが支配的である地域と伝統派イスラムが支配的である地域の間に、いくつかの明確な相違があることが明らかとなった。そして、ジェンダー主流化政策とイスラム法制定の両方ともが、民衆の意思に沿うものであることが明らかとなった。しかしながら、イスラム法に従うことを希望する人々の割合がかなり高いため、例えば相続問題などにおいて、急速なイスラム法改革を行うことは非常に困難であると考えられる。しかし、インドネシアの主流をなしている潮流は近代化を目指すもので、原理主義的グループは非常に小さいため、同国の民衆のイスラム法理解が非常に保守的なイスラム法を制定しようとしている原理主義者たちのそれとは明らかに異なる点は注目に値する。
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