今年度の研究目標は、アメリカ占領軍元兵士(GI)の証言を集めることにあった。アメリカ軍占領下の日本に関する研究は多いが、いずれも占領政策を進めた米軍や日本政府の指導者の視点に立つものであり、占領軍を構成した多数のGIの証言は見られない。本研究の主題である占領軍と日本女性との性関係(特に売買春)の研究においても、実際に売買春に関わった人々の証言は、日本人女性の証言は史料として使われているが(多くはないが)、GIのそれはない。そこで、本研究は従来の研究では欠落しているGIの証言を集め、占領軍兵士と日本人女性の性関係の現実を明らかにしようとしてきた。昨年秋にシアトルで6人の元GIの聞き取りを行い、彼らの語りから示される女性観、日本観は、従来の研究内容を確認したり、それとはずれるところがあったりし、現実に近づくことができたと思う。残念ながら、本研究の主題になっているRAAを直接利用したり、RAAを直接見たりした人はいなかったが、白人や日系人という違いによる彼らの性あるいは日本女性に対する態度の相違なども見られ、前年度に行った黒人GIの聞き取り調査と併せて、GIの多様な性に対する態度が明らかになった。諸般の事情で、計画段階において意図したような多数のGIの証言を取ることはできなかった。第二次大戦直後に日本に駐留したGIも現在では高齢になっており、証言をとることはますます困難になるであろうが、今後も聞き取り調査を続けていきたい。 シアトルでの調査の対象になった元GIは、いずれも日本人女性と結婚していたが、ここから新しい研究の方向を見ることができた。すなわち、戦争花嫁の研究は非常に多いが、その夫の研究はほとんどないということである。占領軍兵士と現地女性の関係は女性の側からのみでなく、男性の側からの研究も行われてはじめて実像が明らかになるだろう。
|