本研究の課題は、女性人材の育成を阻んでいる問題点とともに、これを変革しうる諸条件を実証的に解明しようとするところにある。そのために第一に労働組織の歴史的変動を支える諸要因の解析、第二に労働組織の現状分析という二本の柱をたてている。昨年度に引きつづいて本年度もこの二つの柱を追及し、研究課題を深めることができた。 第一の柱に関連して、関西の大手電機メーカーを対象とした労働組織のジェンダー体制の変動過程分析については、昨年度中に収集した資料の分析を進め、1960年代から1970年代にかけての女性労働者層の位置づけを中心に再構成する作業を行った。また、当時の女性労働者にインタビュー調査を実施し、「生きられた体験」という視点から資料的補足を行った。第二には、1990年代以降、パートをはじめとする非正規雇用が増大とその戦力化がはかられてきたことに注目し、昨年度にひきつづき百貨店B社における契約社員雇用とその戦力化をめざしたマネジメントについて、インタビュー調査を継続した。同時に正社員/パート間の均衡処遇の制度化に取り組み一定の経験年数を有するA社グループ傘下の食品スーパーの調査を予定していたが、これがA社の均衡処遇政策とはかけはなれた存在であることが判明したためこの調査予定を変更し、総合スーパーA社に焦点をあわせて、人事部、店舗双方のインタビューを重ね、その実態を掘り起こした。 第三に、以上の研究をとりまとめるうえで小売業の労働力編成について造詣が深いTony Royle博士のレビューを受けることを希望していたが、スケジュール調整がつかなかった。そこで第一課題も含めた歴史的スパンの長い実態分析を推進する上で、その方法的視点について重要な提起をしているMiriam Glucksmann教授(エセックス大学)を中心にレビューを受けた。
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