研究課題
基盤研究(C)
本研究は、中国近現代思想文化史研究を、アジア間での連鎖のなかに開き、従来、考えられてきたより多様な連鎖のあり方を示しつつ、アジア近代に大きな比重を占めると考えるジェンダー基軸を加えて再考するための基礎研究として位置づける。具体的研究方法としては、19世紀後半〜20世紀初に日本を含めて外国滞在を経験した、もしくは在華外国人との接触を多くもったり、洋書およびその翻訳書からの影響を強く受けた中国知識人(羅森、何如璋、李篠(篠)圃、黄慶澄、譚嗣同、章炳麟、梁漱溟ら)におけるアジア観、そして文献だけでなく、画報類・ポスター・絵はがき等の画像資料を素材とし、民族コンプレックスもしくはアイデンティティ・植民地主義とどのように関係をもちながら、その重層性のうちにジェンダーがいかに表象されているかを、アジアの思想連鎖の中に位置づけて分析してみた。その作業を通して、「野蛮から文明へ」という渇望、社会進化論的な国家観から、ことに日本に関してはアイヌへの強い関心にも示される、ステレオタイプを作る眼差しの多重性も同時に浮き上がらせた。文化史面では、上記のような中国近現代思想史上の著名人物(譚嗣同、章炳麟、梁漱溟ら)、海外紀行文で知られる人物(羅森、何如璋、黄慶澄ら)よりは、その身体や生活スタイルによってのみ存在をアピールした無名かつ確固たる社会集団ともなりえなかった1920-30年代の「摩登女郎」(モダンガール)の表象、とりわけ前衛画家たちが参与した新しいメディアとしての漫画雑誌における表象に焦点をあてた。モダンガールは、文字史料が少なく、また一国史をこえた存在であることからも、従来、歴史学の対象とはなりにくかった。だが、上海をはじめ租界を有した大都会のコロニアルなポピュラーカルチャーの形成のうえでも看過できない存在(多分に男性たちに構築されたものであっても)であることを示した。
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