研究最終年度にあたり、アンケート調査を広く実施することができた。結果の詳細は報告書に譲るが、調査結果の主な成果を記したい。 今日、日本における助産はほぼアメリカ的な医療システムのなかで行われており、そのシステムへの疑義は少ないことが理解された。しかし、その助産技術に対する満足度は低く、分娩前処置(剃毛、洗腸)、血管確保やモニタリングなどは不要と認識されていることがわかった。さらに、会陰切開については助産師が不要と考えている比率が高かった。開業助産師が激減している現在、助産師といえども病院勤務者であり、その助産技術は産科医に近い。つまり、自然分娩における助産技術が明らかに低下していることを伺わせる。医療機器や薬に依存しないお産はまれである。また、分娩台が仰臥であることから仰臥位を強制されてきたのが日本の病院分娩である。したがって、仰臥位に対する違和感はないものの、それが産みやすい体位かどうかにはやはり疑問があるようであった。助産師は明らかに仰臥位以外の体位への選択が多かった。本来、仰臥位は助産者(助産婦。産科医)にとって都合のよい体位であり、産婦にとってはもっともいきみにくく、母胎、胎児にとって抑圧的体位である。医療機関での分娩体位が産婦の選択できるものであるよう改善される必要があるだろう。 助産者のジェンダーについては、やはり男性助産者への抵抗があった。しかし、専門性が高くなるほど、助産者のジェンダーへのこだわりが減少することがわかった。つまり、助産師は「女性」が望ましく、産科医のジェンダーは問われないということになる。 本研究を通じて、もっとも明らかになったことは、戦後日本に助産システムのアメリカ的転換は、助産婦によって担われてきた助産技術の低下をもたらしたことである。さらに、今日の医療化されたシステムにおいては、「産む人」が主体でなく、医療者主導で出産が行われている。このような状況は、「子産み」ばかりか子どもの「育成力」の低下を招くことになるのではないかと危惧される。
|