当研究の目的は以下の通りである。 I.現在の日本における生殖年齢(reproductive age)にある女性の身体感覚、女性性への受け止め方、医療とのかかわりを明らかにする。 II.現在使われている"ウィメンズヘルズ、"Gender Specific Medicine"(GSM:女性に特化した医療)について詳細な定義とその背景について明らかにする。 III."医療が女性の体を管理するのではない女性の保健モデル"の理論的枠祖みについて検討する。 I.に関しては、初年度の質的調査を基礎として、都内の女子大生350名を対象として身体感覚、女性性への受け止め方、医療依存、などに関して横断研究をおこなった。これらの研究項目に対して、重要な背景であると考えられる母娘関係に関して測定するための「母娘関係尺度」も作成した。母と娘の関係が受容に満ちた親密なものであれば、娘の身体感覚、女性性へめ受け止め方が肯定的になることが伺われた。母娘の関係が支配・従属的であると、娘は医療サービスヘの依存が増していた。 II.に関しては文献研究を行った。アメリカにおいて「ウィメンズヘルス」は60年代以降の女性運動の影響が色濃く見られ、Self-help clinicなどを中心とする、「専門職から自らの体をとりもどす」ことを目的とする活動が展開されていった。一方90年代後半から使われるようになったGSMは、臨床家の間から生まれてきた医療の一分野であることが明らかになった。日本では、2000年以降、GSMという言い方が使われるようになったが、「ウィメンズヘルス」と同義で使われており、どちらも、「医療の一分野」としてのとらえ方しか存在しない。 生物医学的なモデル以外の女性の保健モデルについてレビューを行ったうえで、この研究では、権威 的な知識のみではなく非権威的な知恵に基づく「潜在能力開発モデル」の枠組みの提示を試みた。
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