本年度は、種を表す名辞を構成単位とする文を用いた論証を処理する方法として、レシニェフスキのOntology、ロウのSortal Logic、グプタのLogic of Common Nouns、カールソンのReferenc to Kinds in English、ソマーズの自然言語の論理、マクナマラらのカテゴリー理論に基づく一般名の認知論的分析、オレンシュタインの限定量化に基づく三段論法の論理、多種量化論理、一般量化論理、情報工学における記述論理(Description Logic)など、様々な形式体系のうち、存在論的観点からするとどの形式体系がもっとも適切であるかを見極めることを試みた。 それぞれが形式化の手法としてどのような特徴を持つか、どれほどの表現力を有するか、そしてそれらが意味論にはどのように反映されるのか、また、どのような公理系が設定され、どのようなメタ論理的性質が成立するのかを考察した結果、基本的には、一般名辞を述語の一部としてしか認めない標準一階述語論理とは異なり、一般名を固有名と並ぶ独立したカテゴリーとして認めたうえで、何らかのコプラを用いて名辞と名辞を結合する形式化を行うような形式体系が望ましいのではないかという展望を得た。しかし、特定の一つの体系への絞り込みや、付加すべき様相論理の体系の選択までには至らなかった。 しかし、本研究のような形式存在論研究が、その大きなバックグラウンドである分析哲学のどのような歴史的潮流の中に位置づけられるのかについて考察した論文「分析哲学における伝統的形而上学の復興」を、青土社発行の雑誌『現代思想7月号』で発表することができた。また、実体様相の一つとして、本研究の対象である種的様相と並立する時間様相について考察した論文「可能性から必然性への変化としての時間生成」を、サイエンス社発行の雑誌『数理科学7月号』において発表した。
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