本年度は、まず、種を表す一般名辞を連結するコプラをひとつの論理記号として持つような述語論理体系の構築を試みた。その方法論としては、レシニェフスキのOntology、ロウのSortal Logic、カールソンのReference to Kinds in Englishなどがあるが、存在論的観点からするといずれが最も適切であるかを検討した。そのうえで、どのような形で様相オペレーターをさらに付加するべきか、それに対してどのような意味論を与えるべきか、そしてその様相に関してどのような公理を採用すべきか、ということを考えた。 その結果、まず第一に、本研究が依拠する論理体系の原型としては、ロウのSortal Logicを採用することにした。彼の体系では、標準的一階述語論理の基本的枠組みを保持しながら、固有名以外に種名を表す定項が新たに導入されると同時に、同一性記号に加えて実例化(instantiation)記号が、二つの定項を結ぶコプラ的な論理記号として導入される。これによって、アリストテレス的な「四カテゴリー存在論」に即した形での記号化が可能となり、それに基づいて、傾向性(dispositional)言明と生起性(occurrent)言明とを区別することができる。また、標準的一階述語論理から大きく逸脱することなくそうした改良を行えることもその利点の一つである。 さらに、このSortal Logicを基にしながら、それを部分化したうえで(外延的)真理演算子と(内包的)様相演算子を付加して得られる部分様相種的論理(Partial Modal Sortal Logic)を新たに構成し、その構文論と意味論の骨格を決定した。そして、その公理系としては、標準的様相論理におけるS5に対応する体系を採用することにした。 また、以上の主要研究成果以外に、本研究の応用的成果として、論文「オントロジー構築のための実在論的方法論」を『人工知能学会誌』に発表した。さらに、種的様相と並ぶ実体様相としての時間様相に関する論文「時制と実体」を『埼玉大学紀要』に発表した。
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