本年度は、一方で、以前の二度にわたる科研費研究において行った行為や心の哲学における「エネルゲイア」概念についての研究成果を、議論のレベルをできるだけ落とすことなく一般向けに簡明に纏めた『アリストテレス--何が人間の行為を説明するのか?』の執筆を通じて、「エネルゲイア」概念の形而上学における意義を論ずるための整理を改めて行ないながら、他方で、「エネルゲイア」概念の形而上学的意義の分析に重要な意味を持つと考えられる「ヘクシス(性向)」概念をさらに明らかにするために、これまで部分的にしか検討してこなかった『政治学』における人間のあり方(性向)の形成における「教育」の意義を論じたテクストの文献学的基礎分析を行った。こうした一連の研究において特に注意したのは、人間の行為と性向の形成の説明において「善」概念が占める位置について、それが、主観的に欲求されるものというだけでなく、何らか客観的に認識されるものであるとされているように見えることから、さらに「アリストテレス」が宇宙論的目的論を何らか構想していたのかどうかという「哲学史」的な問題と、宇宙論的目的論が実際現現代において何らか有意義でありうるのかとういう「哲学」的問題とを、混同することなく、しかし、一方に偏することなく考えることである(来年度は、この作業を本格的に進めることになる)。 また、本研究に間接的に関わる研究として、『岩波応用倫理学講義7問い』を編集し、その総論部分(160枚)において「エネルゲイア」概念の行為と心の哲学の現代における展開を、科学技術の展開などによってもたらされた現代における緊急の倫理学的問題との関わりから論じた。
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