研究課題/領域番号 |
16520009
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
今井 知正 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 教授 (50110284)
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研究分担者 |
宮本 久雄 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 教授 (50157682)
山本 巍 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 教授 (70012515)
信原 幸弘 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 助教授 (10180770)
野矢 茂樹 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 助教授 (50198636)
門脇 俊介 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 教授 (90177486)
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キーワード | 自然主義 / 反自然主義 / ピュシス / ノモス / 九鬼周造 / 三木清 / 構想力の自然 / おのずからなる自然 |
研究概要 |
第一年度めの本年度は、哲学的自然主義の現代的可能性を検討する前提として、自然主義をめぐる哲学的思考の遺産を再検討し、過去の自然主義と反自然主義との論争史の中に、現代につながる文脈を探求することをめざした。 山本、宮本、今井を中心に行なったギリシャ思想とヘブライ思想の再検討においては、両思想を単純に自然主義対反自然主義として対立的に見るべきではなく、「自然」についての二つの観方の相違を重視すべきだという結論が得られた。ギリシャ思想の「自然」観は両義的であり、イデア的・形相的なものに対する無力な惰性態として自然を軽視する立場と並んで、ノモスと対立するだけでなくそれを包摂し、一切を含んで生成消滅するピュシスの観念が存在する。これに対してヘブライ思想(ユダヤ・キリスト教思想)においては、自然は広義の「倫理」的観点の優越のもとに背景に退き、以後の反自然主義の原型のようなものが形作された。 門脇、高橋、黒住を中心に行った日本思想の検討においては、近代日本哲学における二つの興味深い「自然」の位置づけとして、九鬼周造と三木清が問題となった。九鬼はハイデガーに学んで「いきの構造」についての解釈学的現象学を展開し、『偶然性の問題』等で反自然主義的実存哲学を探求したが、やがて「日本主義」の台頭の中で実存的緊張を失い、「おのずからなる生成」としての「自然」にすべてを解消するような方向に向かった。これに対して三木清は、フォイエルバッハからマルクスの線で史的唯物論に接近したが、唯物論的自然概念の哲学的再検討を重視し、「構想力の論理」において、カントに見られる「客観的自然と実践的道徳の対立を媒介する構想力の自然」という発想を追究した。三木の言う「構想力の自然」を、メルロー=ポンティがフッサール現象学の成果として見出した「自然」につなげ、展開する可能性が議論された。
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