本年度は、研究課題のうち、コントの社会哲学におけるジェンダーに関わる議論の検討を中心に調査・研究を行った。 まず、コントの社会哲学を同時代の潮流の中に位置づけるために、関連文献資料を収集しながら、特にコントと関係の深かったサン・シモンや、早々と近代家族の解体を唱えたフーリエなど、19世紀フランスの関連する社会哲学の流れを把握するよう努め、一定の成果をあげることができた。 ついで、国内ではとりわけ入手困難な関連歴史的資料に関して、フランス国立図書館(B.N.)等で収集に努めた。結果として、多くの資料を渉猟してマイクロフィルム等の形で収集することができ、初期の目的を達成することができた。 また、女性史的事実を中心に19世紀フランス社会の変容に着目して同時代史を押さえながら、ジェンダーに関わる同時期のフランスの思潮を検討し、一定の成果をあげることができた。 さらに、これらの準備作業を踏まえて、関連文献資料を収集しながら、彼に影響を与えたド・ヴォー夫人との伝記的事実を検証する一方で、コントの社会哲学を前期の実証哲学から後期の人類教へと辿り、『実証哲学講義』や『実証政治体系』に見られる性別に関わる彼の議論を検討し、おおよその見通しを立てることができた。あわせて、コントの科学論を再吟味し、彼の科学論と社会哲学との関係を確証し、社会哲学に組み込まれた性別規範の根拠をコントが何に求めているかを明らかにすることに努め、大筋の理解を得ることができた。
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