本年度は、A.コントに関わる前年度の研究の整理と補足的研究をする一方で、主には、J.S.ミルの社会哲学におけるジェンダーに関わる議論の再検討とその意義の解明に努めた。 ミルに関して、はじめにミルの社会哲学を同時代イギリスの歴史的潮流の中への位置づけを試みた。そのために、第一に、国内外で関連文献資料を収集しながら、ベンサムと父ミルら哲学的急進派の人々を始めとする19世紀イギリスの社会哲学の流れを調査した。第二に、特に国内で入手困難な歴史的資料に関して大英図書館等で収集に努め、ミル前後のジェンダーに関わるイギリスの思潮を検討し、一定の成果をあげることができた。 これらの時代的背景の調査を基礎にして、第三に、国内外で関連文献資料を収集しながら、ミルへの影響が指摘されるハリエット・テイラー(のちのミル夫人)との伝記的事実を確認する一方で、ミルの社会哲学を、『論理学体系』における科学論を踏まえながら、『自由論』『女性の隷属(女性の解放)』『功利主義論』『代議政治論』などの主要著作を中心に通覧し、ミルの性別規範に関わる議論の起源を探究し、一定の成果をあげることができた。 これらの成果はいまだ論文としてまとめるには到っていないが、研究はほぼ計画に従って進んでいる。
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