本年度は「道化師ツァラトゥストラ=永遠回帰の教師」というテーゼにおける「永遠回帰」を主題とした。まず深淵が永遠回帰の思想の形象であること、そして「深淵から光の深淵へ」と深まることを明らかにした。『ツァラトゥストラ』第三部の「幻想と謎」において、蛇をかみ切った牧人は「変容した者、光に包まれた者」となることによって、永遠回帰の世界は深淵から光の深淵へと変わる。 ツァラトゥストラ自身が永遠回帰の思想と真に対決するのは、第三部「回復する者」においてである。ツァラトゥストラの動物たち(蛇と鷲)が歌うのは「すべての物がそれ自身舞踏する」世界であり、この世界こそが永遠回帰の肯定的な世界である。「回復する者」の章においてツァラトゥストラは未だこの世界に到達してず、第三部最終章「七つの封印」において可能となる。そして『善悪の彼岸』150の言葉における「英雄→半神→神」の三つの段階が「三つの変容」に正確に対応していることを示した。 「すべてのものは永遠に回帰する」という永遠回帰の思想は永遠性を語っている。「永遠回帰」の永遠性は時間のうちでの永続性(sempiternitas)であるが、永遠回帰の思想を肯定する瞬間は現在としての永遠性(aeternitas)である。深淵は永遠回帰の否定面として「黒い重い蛇」として最初に現われる。そして「日の出前」の世界、舞踏の世界としてその肯定的な姿で描かれるが、それが光の深淵の世界である。さらに「正午の深淵」として、時間なき「永遠性の泉」の世界、現在としての永遠性の世界である。現在としての永遠性の次元から、真夜中が「すべての快は永遠性を欲する」と語る。本年度の課題の核心は、『ツァラトゥストラ』の最も深い次元が「現在としての永遠性」にあることを証明することであった。
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