本邦の生殖補助医療を推進指導する立場にある日本産科婦人科学会理事長・武谷雄二東京大学教授は、理事長就任挨拶「日本産科婦人科学会理事長を拝命するにあたって」(平成17年4月、日産婦HP)の中で、「本会を最も煩わしているのは生殖に関する倫理」との認識を率直に披瀝した。 本邦の生殖補助医療界は、着床前診断という治療方法の適応の拡大を巡り、それに期待する患者や患者の負託に応えようとする推進派と、着床前診断の「適応の暴走」(「商業主義的展開」)を懸念する慎重論者や受精卵の選別に障害者差別を訴える強力な反対派団体との板挟みになって、まさに現代のハムレットである。 以上の現状を踏まえて、私は今年度も、「生殖の生命倫理学」研究者の1人として、『日本の着床前診断』について「問題点を整理」するとともに、「医学哲学的所見」を示した。 昨年度に引き続き、日本産科婦人科学会首脳部や一部マスコミ、着床前診断の前に立ちはだかる関係患者団体から提出された以下の5大懸案を真正面から受け止めて、その懸念を払拭し、結論を導き出した。 1.着床前診断は障害者差別(優生思想)である。 2.着床前診断は女性に対する抑圧である。 3.着床前診断は生命の選別につながる。 4.着床前診断は実験研究段階で、診断精度は低く、安全性が確立されていない。 5.着床前診断の「適応の暴走」すなわち「商業主義的展開」への歯止め。 その結果、日本産科婦人科学会は、「重篤な遺伝性疾患」に限定していた着床前診断の適応対象を「相互転座に起因する習慣流産」にまで拡大する方針転換を平成18年5月の総会で了承した。 上記活動成果を確認した論者は、本テーマに関する過年度の研究成果を学位論文にまとめるとともに、医薬学専門出版の永井書店より公刊した。
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