沖縄県では、病院で患者が亡くなるとユタ等によって、マブイ(霊魂)をグソー(後生、あの世)に導くための儀礼であるヌジファ(抜霊)が行われることがある。あるユタによれば「ウムイウマンカイウトゥチェーキミソーラングトゥ(思いここにおとしてくれませんように)」と声をかけながら、線香とサンでユリー(マブイ)をとるというふうにヌジファは行なわれる。そのようなユタ等の行為に対して一方で病院側は迷惑な行為と見る向きもあるが、他方ヌジファは遺族にとってはグリーフケアの意味を持つ。亡くなった身内の者等のマブイが迷うことなく、ヌジファによってグソーに往けただろうと安堵するからである。本研究は、以上のようなことを踏まえながら、実証的な検証も行い、病院におけるヌジファの意味とその望ましいあり方について明らかにすることを目的とした。概ね、目的は果たせたと考えるが、明らかになった要点を次に確認する。ヌジファは死者のマブイをグソーに導くものであると同時に、死別による遺族の悲しみへのケア(グリーフ・ケア)の意味がある。つまり、遺族に対するグリーフケアのあり方を考えるとき、遺族のスピリチュアルペインに対するスピリチュアルケアもグリーフケアとして必要な場合があり、そのようなスピリチュアルケアに際しては文化的、地城的な違いを考慮に入れる必要がある。したがって、沖縄におけるグリーフケアを考えるときにも沖縄独自の死と死後についての考え方、霊魂観等を考慮に入れる必要があり、特にヌジファの意義が認められるべきであろうということが言えるが、このことが実際に遺族へのインタビューで確認できた。ヌジファは、それにしてもやり方次第では他の患者への迷惑となるが、しかるべき仕方でヌジファをやっておけば逆にそのような迷惑行為を防ぐことが出来る。病院関係者の意識としても、病院や他の患者の迷惑にならない範囲内でなら、希望する遺族には認めてあげたいという声が多く闘かれた。
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