1 「研究の目的 1」として掲げた「20世紀初頭の日本における女性運動の指導者たちに見られる優生思想と育児観の検討」のために、本年度研究実施計画1〜2に対応する研究として、『青鞜』(1911〜1916)とほぼ同時期の女性雑誌『新真婦人』(1913〜1923)における優生思想の紹介記事を分析した。自立する女性向けの雑誌を標榜しながら、男性医学博士等を登場させ、「人種改善学」と訳された欧米の優生思想の紹介に積極的な記事が散見する。1910年代の早い段階で、新マルサス主義を避妊論として受容し、少子良育のための産児制限論に結実する主張の流れが見える。伝染病と遺伝と教育環境の問題との区別が曖昧なまま、女性の側に、配偶者選択に始まる家庭の問題を社会問題と連携させて理解する教養を持つよう呼びかけ、人口政策としての側面よりも、家庭を性病から守り、子どもを非行から遠ざけるための方策として、「質のよい」子どもを産育する庶民の目線の優生思想が肯定された。母性保護論争の担い手たちへの影響を始め、婦人矯風会や新婦人協会等の運動へつながり、やがて国家主義へと絡めとられる、日常生活の中への自主規制的受容の流れを形成する役割の一端を、この雑誌は果たしたといえるであろう。 2 「研究の目的 2」として掲げた「20世紀初頭のドイツとアメリカ合衆国における、進化思想に裏付けられた合理的家事改革論(集合家事論・集合育児論)と母性保護論及び女性運動穏健派の母性論・育児論の分析と比較」のために、本年度研究実施計画3〜6に基き、本年度は集中的に英語・ドイツ語の文献を収集した。特にドイツ語文献は、当時の貴重な文献を多数入手できた。ヘレーネ・シュテッカーの「母性保護同盟」機関紙は、研究補助者を用いてマイクロ・フィッシュからの複写印刷を行った。以前から続行しているマリアンネ・ヴェーバーの著作の翻訳・分析もさらに進めた。
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