研究課題
基盤研究(C)
20世紀初頭の日独米の女性運動指導者における優生思想と育児観を比較研究するために、スウェーデンのエレン・ケイ、アメリカ合衆国のシャーロット・パーキンズ・ギルマン、ドイツのヘレーネ・シュテッカーとマリアンネ・ヴェーバー、目本では平塚らいてうを取り上げた。まず、日本とドイツに大きな影響を及ぼしたケイの『児童の世紀』において、社会進化論、ニーチェ哲学の影響、優生学、恋愛結婚論、未来の社会構想、育児論などを吟味した。ギルマンに関しては『女性と経済学』と『ハーランド』において独創的な母性論と集合育児論に注目し、社会進化論、性的-経済的関係論、協同家事論、母性論、集合育児論、優生思想などの特色を検討した。両者とも、社会進化論を基調に、女性の経済的自立、新しい家族論、未来の社会構想を掲げ、優生思想によって親からの遺伝と環境の影響の重要性を指摘し、育児の変革を提起した。しかし育児の方法論が異なり、ケイは母性年金による実母育児論を、社会的母性を評価するギルマンは訓練された専門家による集合的育児を主張した。優生思想は、ギルマンの場合移民社会を反映したものになっており、ケイの場合は両親の、特に母親の心身の健康を重視するものとなっている。ドイツでは独訳を通して、市民的女性運動急進派は、ギルマンからは経済的自立論を、ケイからは母性保護論と産児調節論を受容した。「母性保護同盟」を主催し、産児調節運動を積極的に推進したシュテッカーにとっては、女性運動と新マルサス主義(産児調節)と母性保護は連動していた。シュテッカーに関してフェミニズムと優生思想の結合に関する最新の研究動向を整理した。機関誌『母性保護』『新世代』から重要な論説を翻訳した。穏健派のヴェーバーは、ギルマン、ケイ、シュテッカーのそれぞれを批判して、独自の現実的政策を提案した。日本近代の女性たちは優生思想を少子良育の家族の健康管理の方法として受容した。この例として、『新真婦人』の優生学紹介記事を分析した。らいてうは、ケイの受容から始まり、経験を通して思考したが、その優生思想を、『青鞜』、母性保護論争、新婦人協会の花柳病男子結婚制限運動と順を追って検討した。育児観についてもギルマンに対する批判論を分析した。欧米でも遺伝と環境を混同する段階にあって、科学に楽観的に期待し、法的措置の対象に多くもの挙げていた男性や国際的優生運動とは異なって、最終的にはらいてうが性病にのみ限定するに至った独自性を考察した。母性主義も優生思想も多様であり、女性たちは家族と社会と人類への責任を自立の問題と同時に視野に入れて熟考していた。
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すべて 雑誌論文 (8件)
昭和女子大学女性文化研究所紀要 34
ページ: 73-85
Bulletin of the Institute of Women's Culture, Showa Women's University No. 34
昭和女子大学女性文化研究所紀要 33
ページ: 77-87
昭和女子大学女性文化研究所 Working Paper 20
ページ: 1-33
Bulletin of the Institute of Women's Culture, Showa Women's University No. 33
Working Paper of the Institute of Women's Culture, Showa Women's University No. 20
昭和女子大学女性文化研究所紀要 32
ページ: 69-76
Bulletin of the Institute of Women's Culture, Showa Women's University No. 32