当初研究計画に従って2004年6月に渡欧し、伝統的歴史哲学の今日的可能性についてマインツ大学のA.チェザーナ教授と、分析的歴史哲学の議論の現在と今後の方向についてフローニンゲン大学のF.R.アンカースミット教授と、それぞれ意見交換を行った。特にアンカースミット氏からは未公刊論考の提供を受けるなど、今後の研究の構想について具体的な資料をも入手することができた。2004年9月には、別の科研費補助金研究計画の遂行のために中国杭州市および上海市に出張して、荒々しく変貌する中国社会の現在を実見し、6月渡欧時の見聞もあわせ、「グローバリゼーション」こそが今日の哲学的歴史理論の中心問題の一つたらざるをえないとの確信をえた。 2004年9月、本務校の早稲田大学第二文学部の歴史・民俗系専修夏季集中講座「今なぜ歴史的想像力なのか」(コーディネータ:李成市教授)に来校した他の講師の人々(岩崎稔・鵜飼哲・岡真理・岩崎稔・小島潔・西谷修・尹健次・渡部延志)と、毎回修了後に時間を設けて、「歴史」問題の現在およびそこにおける哲学の課題について、親しく討論する機会をえた。 雑誌"History and Theory"を中心に、主としてA.C.ダントーの分析的歴史哲学への現在の評価・継承の試みについて資料を収集するとともに、「歴史」問題について論じた日本の思想家(小林秀雄・阿部謹也・網野善彦)の著作の検討を行った。小林秀雄を取り上げた論文「吹き溜まっている時」を、2004年11月刊の実存思想論集第19巻『実存と歴史』に掲載したのを皮切りに、「グローバリゼーション」をはじめとした現代日本社会の諸問題に結びつけて彼らの議論を再評価する論考を執筆し、いずれも2005年中に公刊される運びとなっている。
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