本年度は、日本の哲学界および歴史学界を代表する2学会(日本哲学会・歴史学研究会)から、シンポジウム出席・学会誌寄稿を求められた。これを機会にまず第一に、本研究計画のテーマである「現代における哲学的歴史理論」の輪郭を、現段階で可能なかぎり明瞭に提示する試みを行った。内外の研究文献を参照しながら、現象学的解釈学の方法論に基づいて、「来歴の語りに人はつねにすでに巻き込まれている」という現事実性を出発点に、「来歴の語り」「調査探究」「痕跡の記録」という3層の相互関係として「歴史」をとらえる基礎論を構築し、上記2学会の機関誌にその概要を記す論考を発表した。 第二として、この基礎論を具体化するために、じっさいの歴史研究・歴史叙述の検討を行い、それに従事する人々との交流を図った。具体的には一橋大学名誉教授・阿部謹也氏、奈良県立橿原考古学研究所研究調査部長・寺沢薫氏、ハーゲン大学教授・Felicitas Schmieder氏、および『天龍村史』を2000年に編纂刊行した長野県天龍村の村民の方々である。その成果を来年度に出版予定の著作に集約するべく、現在執筆作業を進めている。 第三に、研究テーマとの関連で20世紀の哲学的歴史理論についての理解を深めるべく、M.ハイデガーとW.ベンヤミンの歴史論の検討を行った。その過程で、カリフォルニア大学教授・Martin Jay氏およびマインツ大学教授・Andreas Cesana氏と対話し、現在「グローバリゼーション」と呼ばれている現象との関係でハイデガー、ベンヤミンの議論をとらえ直す示唆をえた。ハイデガーについては、彼の第二の主著と呼ばれる『哲学への寄与』に関する研究成果を「ハイデガーの時代診断」と題する論考にまとめ、5名の共著者の論考とともに1冊の論集として平凡社から刊行する運びとなった。
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