研究課題に掲げた「現代における歴史哲学(哲学的歴史理論)の可能性」について、最終的に次の結論を得ることができた。哲学的歴史理論は今日では、その基礎論として「歴史の物語り理論」、その基礎論をも可能とする歴史動向を考察する「メタ物語り理論」としては「哲学的グローバリゼーション論」として展開されること、これである。この二重構想のうち、前者については『可能性としての歴史-越境する物語り理論』(岩波書店)として議論を具体化し、単行本として世に問うた。 個々の具体的な研究実績としては、第一に「歴史の物語り理論」の出発点となる分析的歴史哲学、物語り論的解釈学、歴史の修辞学の基本文献について詳細な検討を行った。とともにF.R.アンカースミット教授(フローニンゲン大学)を訪問して意見交換を行い、議論の最先端についての情報を得た。 第二に、20世紀前半までの哲学的歴史理論について、種々文献を検討した結果、ベンヤミンとハイデガーの思想が現代の問題を考えるうえで特に意味をもつことを確認した。この点についてはA.チェザーナ教授(マインツ大学)、マーティン・ジェイ教授(UCバークレー)との討議に負うところが大きい。 第三に、哲学的議論の精緻化にあたって、具体的な歴史学研究を参照する試みを行った。単に文献に当たるのみならず、故阿部謹也教授(一橋大学)や寺沢薫氏(奈良県立橿原考古学研究所)との意見交換をおこなった。 第四に、現在の歴史状況を「グローバリゼーション」と捉え、それに関する文献を読み進めるとともに、長野県天龍村・中国・ドイツ・オランダ・スイス・米国を訪問して、地域・国ごとのグローバリゼーション経験を汲みとる試みを行った。
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