研究課題
基盤研究(C)
本研究の第一の目的は、セクストス・エンペイリコス『学者たちへの論駁2、論理学者たちへの論駁』(本邦初訳)の完成、およびその過程での新知見の開拓にあった。本著作はとくに認識論の問題を取り上げ、西欧における文芸復興(ルネッサンス)を経て、近世哲学が、大陸合理論・イギリス経験論を問わず、認識論を中核として発展する機縁となった諸議論を詳述するものである。目的とした翻訳は、平成18年8月に京都大学学術出版会より発行することができた。この著作は、ヘレニズム時代に活発に行なわれた哲学論争における懐疑主義者の側の諸議論を収めるだけでなく、彼らの論敵であったストア派、エピクロス派などのドグマティストたちの諸議論をも詳しく紹介している。その中でも、とくにストア派の緻密な認識論、論理学の体系に関する論述は、きわめて価値の高いものであり、詳細な訳註、補註を付した翻訳の完成は、今後のわが国のヘレニズム哲学研究にとって不可欠の資料となるものと期待される。またセクストスの時代の思想状況と彼の独自性という問題についても考察を深めることができた。セクストスは、その情報源としてアイネシデモス(ピュロン主義者)、アンティオコス(アカデメイア)、ポセイドニオス(ストア派)、ピロデモス(エピクロス派)、プルサのアスクレビアデス(医学者)の著作を用いている。彼らはいずれも前1世紀に活躍した人々であり、このことから、前1世紀に隆盛を極めた哲学・学問の輪郭が示されてくる。またセクストスがたんなる思想情報の報告を事とする著作家ではなく、「あらゆる言論にそれと同等の言論を対置する」という懐疑主義の目的に沿いつつ、取り上げる思想の諸論点を、ある面では受容し、他面では批判するという仕方で解釈、説明しうる優れた哲学者であったことも明らかにすることができた。
すべて 2006 2005
すべて 雑誌論文 (10件) 図書 (2件)
西洋古典学研究 54
ページ: 1-13
哲学フォーラム(名古屋大学哲学研究室) 4
ページ: 53-62
Journal of Classical Studies (Classical Society of Japan) 54
Forum of Philosophy (Philosophy Department of Nagoya University) 4
Kyoto University Press
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人文研究 36
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哲学研究 580
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Journal of Osaka Medical College, Studies in the Humanities 36
The Journal of Philosophical Studies, Tetsugaku Kenkyu 580
Sekaishisosha
ページ: 572