本研究は、ケアの倫理、ハンス・ヨナスの責任原理に焦点をあて、正義を基底とする倫理と対照することでケア・責任・正義の相補的研究を行うものである。本年度は、本研究の最終年度として、ケアの倫理に関してはヘルド、セヴェンヒュイセン、コーネル、ベナーらの仕事の読解、ヨナスについてはその形而上学的考察に重点をあてて研究を進めた。前者については「ケア対正義論争-統合から編み合わせへ」「ケア関係における他者」、後者については「責任原理の一解釈-正義と境を接するもの」と題する論文を執筆し、既存の諸論考と合わせて『正義と境を接するもの責任という原理とケアの倫理』の題目のもとに学位請求論文にまとめ、平成18年10月に京都大学大学院文学研究科に提出し、それにより平成19年3月23日に博士(文学)を授与された。同論文は、平成19年度中にもナカニシヤ出版から公刊する予定である。なおこれとは別に、本研究期間中に活字化した関連論考を報告書にまとめ、平成19年3月に関西大学に提出した。このほか、ヨナスの未来倫理を人間の存続すべき理由を問う考察として捉える本研究の展開として、「書評ヘルガ・クーゼ『生命の神聖性説批判』」を平成18年8月に『週間読書人』に公表し、同書をめぐる合評会(京都生命倫理研究会、平成18年12月26日)でパネリストを務め、平成19年1月27日に東京大学で行われたクネップフラー教授(イエナ大学)の講演「人間の尊厳という原理と治療を目的としたクローニング」で特定質問を務めた。また、ヨナスと討議倫理学との対立関係の調査のため、平成19年3月にケルン大学等を訪問した。なお、昨年度に訳出作業を終えたジェノバ大学のベッキ教授のヨナスとアーペルに関する論文は、公表する機会が遅れていたが、平成19年3月刊行の『応用倫理学研究』第4号誌上に掲載する。
|