本研究は、郭店楚簡と上博楚簡とを中心に、新出土資料に登場する気概念を分析し、『国語』を始めとする伝世の文献に登場する気概念との比較・検討を加えつつ、両者を統合して捉えて、戦国時代における気の思想の展開を解明することを目的とした。 その主たる成果は、郭店楚簡・上博楚簡中の道家系文献の気について検討・考察を加え、道家における気の思想の展開について新たな知見を得たことである。すなわち、上博楚簡『恆先』・郭店楚簡『老子』・郭店楚簡『太一生水』の三つの文献は、それぞれ異なる宇宙生成論を説く文献であるが、その宇宙生成論はいずれも気と結びつけられていた。注目されるのは、その宇宙生成論と気との関連の仕方が、それぞれの文献によって異なるという点である。これは、気の思想はそもそも宇宙生成論とは直接には関係がなかったのであるが、『恆先』・『老子』・『太一生水』の作者がそれぞれ独自の宇宙生成論を主張・展開する際、それぞれの宇宙生成論の共通の前提として気の思想を受容し、それぞれの主張に適合する形にアレンジしていったことによると考えられた。 この他、戦国楚簡研究を進める上で避けて通ることのできない竹簡資料の復元の問題について、契口を中心とする竹簡の形制に注目する必要があることを明らかにし、上海楚簡『曹沫之陳』における竹簡の綴合・復元の問題、及び同じく上海楚簡『采風曲目』の竹簡の形制の問題を検討し、それぞれの文献の復元に関する新たな知見を得た。
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