平成16年度から18年度までの3年間の研究活動の概況は次の通りである。 1.資料の蒐集・整理 本研究申請時にすでに10本の《玉歴鈔伝》本を所有してはいたが、はじめの2年間には《玉歴鈔伝》の本の更なる蒐集に努めた。特に原稿本の入手の為に、台北・香港・成都・北京・上海・寧波・南京等へ出かけ、彼地の寺院・廟・宮などを訪れた。平成18年租に入手したものを含め、全部で50本を越えることとなり、全てに簡単な解題を付した「資料集成」を作成した。 2.蒐集資料に対する検討 資料蒐集及び整理に思いのほか時間がかかってしまったのであるが、<訳注>の対象とした<十教十王>部分だけではなく、次の3点について特に検討を加えた。 (1)目次を基準に書く本の内容構成の比較検討 (2)像図部分の比較検討。特に白無常・黒無常・活無常・死有分と呼ばれる登場人物について、文字資料だけではなく、台北市萬華区にある青山宮の主神の聖誕祭祀の折に他の神将達を一緒に萬華区市中を練り歩く中にそれらの姿を発見できたことは、人々の生活の中における《玉歴鈔伝》本の位置付けを考える上で大いに役立つことである。 (3)印送(施印・託恵)者についての記事の有無。清末民国初め頃の木版本や石印本の中には印送についての記事が有るのだが、現行本は少ないか、個人ではなく宗教組織が出版をしている場合もある。その中で特筆に値するのが南京霊谷寺で入手した《玉歴宝鈔》であうr。これは他本とは異なる点が甚だ多いのが特徴であるが、巻末に施印者(額は1人1元から1人7920元、合計99851元が寄せられ35000本を印刷)名簿が付されている。<前〓>に協調されている「勧善懲悪・因果報応」が、《王歴鈔伝》本を持ち出してまで対応せねばならなくなった現在中国の倫理観・道徳観の欠如に由来するのであることが判る。
|