研究課題/領域番号 |
16520037
|
研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
青木 隆 日本大学, 文理学部, 准教授 (20349947)
|
研究分担者 |
東長 靖 京都大学, 大学院・アシアアフリカ地域研究科, 准教授 (70217462)
加藤 茂生 早稲田大学, 人間科学部, 講師 (30328653)
仁子 寿晴 京都大学, 大学院・アジアアフリカ地域研究科, 准教授 (10376519)
黒岩 高 武蔵大学, 人文学部, 准教授 (60409365)
佐藤 実 金沢大学, 学内共同利用施設等, 研究員 (70447671)
|
キーワード | 中国哲学 / 宗教学 / 自然学 / スーフィズム / 朱子学 |
研究概要 |
第4年目となる本年は、『天方性理』の巻二(第1章〜第5章)、巻五(第3章〜第七章)の会読を中心に行った。 巻三は、ミクロコスモスの創造がテーマである。「概言」に「小世界に際限がないのは、小世界の理に起はあっても、滅はないからである」とあり、小世界の理を継性、すなわち不滅の本然たる真宰と解すると、巻三全体の意図が見えてくる。つまり、巻三最終章で熱をこめて説かれる真宰と我との合一がどうして可能なのか、その根拠をミクロコスモスの自然学に託して闡明することである。第一章は、『ミルサード』を援用しつつ、アダムに出現が語られている。第3章は、アリストテレスに起源を持つ四体液説を、劉智はマテオ・リッチ『乾坤体儀』から導入し、四体液が生じる原因を子宮の熱に求める彼独自の説に組み込んでいる。第5章では、耶蘇会士が紹介したガレノスの解剖学からもたらされたと思しい脳に関する知見をもとに、人間の身体は、体内の諸器官が脳と心を二重の中心として統合されることによって完成するという独自の心身観を披露している。いわば、人間身体が二重権力的に統治されているという点は、巻二でマクロコスモスがアルシュ天と太陽天を二重の中心として秩序化されていると述べているのと非常に似ており、劉智の思想の特徴がそこに存すると見てよい。 巻五は、小世界・大世界の両方に共通する哲学的諸問題を述べている。第3章では、われと真一との合一が語られている。中国の明末、天地万物の本体と我との合一を希求した「万物一体の仁」の思想が流行し、多くの思想家が、我と万物との間の「往来」があることを「万物一体」が機能している例証に拳げて論じた。ここで劉智は「一が我と合一するならば、一と我の間の往来が無くなる」と、あえて「往来」のないことを、われと真一との合一の条件に拳げている。このことは、中国風の「万物一体」を意識しつつ、劉智がイスラームを論じていることの明らかな証拠と考えることができる。
|