本年度は、『神会語録』のうち『南陽和上頓教解脱褝門直了性壇語』について、注釈研究の最終的な検討に入った。定例研究会では共同研究者各自の分担研究を全体討議に掛け、最終的な見解の統一を図ることに主眼を置いた。中島本人の主な研究成果としては、論攷「褝学試論-神会を手がかりに-」を『禅学研究』二○○五年特別号(平成十七年五月刊行)に発表し、次いで同七月二十九日、国際仏教大学において開催された「日本印度学仏教学会学術大会」に参加し、「神会の菩薩戒思想について」という論題で研究発表した。同論文は、同年十二月に刊行された。その内容を概観すると、先ず「禅学試論」では、中国仏教史の上で、禅宗の登場を中国中世の終焉期と規定し、禅宗は中国中世仏教の積極的な革新、克服運動として理解することで、その後の禅宗の特徴は説明できるという結論に至った。褝宗は初期から一貫してこの性格を懐胎していたと理解できるが、誰よりやはり荷沢神会の運動と思想が決定的に重要であったことを分析した。次の論文「神会の菩薩戒思想について」では、初期禅宗の成立過程で、六祖慧能の顕彰活動という決定的な役割をはたした荷沢神会が、思想的にも「大乗菩薩戒」を宣揚することで、初期禅宗の仏教運動としての思想的特徴を決定づけたと論じた。つまり大乗菩薩戒こそは、中国仏教に決定的な質的転換をもたらす原理であり、褝宗の運動は結局、この菩薩戒思想を根拠とし宣揚する運動だったのではないか、という結論に至った。また八月には、韓国ソウルの中央僧伽大学を訪れ、韓国における初期禅宗の研究動向に触れることができた。その他、衣川賢次も『褝学研究』に論文「荷沢和尚南宗五更転訳注」、及び口頭発表「日本と中国の古写経による仏典校訂の試み」(国際仏教学大学院大学06.02.25)を発表し、研究協力者の西口芳男は『神会語録』の本文校正の労をとっていただいた。
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