本研究は、インド近代を準備するにあたってのヨーロッパのキリスト教宣教師の貢献を、彼らの「文化適応(inculturation)」という手法を軸に検討し査定しようとするものである。考察の中心には、南インドのイエズス会マドゥライ・ミッションを据え、彼らのタミル文学における事績を辿ることで明らかにしようとする試みである。 テーマがかなりの程度局限されていることもあり、研究資料の蓄積は日本に期待できず、当のインドでも散逸したり保存状態や利用の便が劣悪のため、欧米の機関に頼らざるを得ない。これまでイタリア、ドイツ、米国で関連する資料の収集に努めてきたが、今回はフランクフルト・アン・マインのゲーテ大学の中央図書館に赴き、カトリックの宣教師関係の印刷資料を検索・収集してきた。斯学の権威であるミュンヘンのヘンケル博士とは、書簡のやりとりなどによって必要な情報の供与と指導とをお願いしている。 本年度は、さしあたり揃いつつあるジュゼッペ・ベスキの文学作品について、それらの背景を調べ、宣教史上に位置づけ、作品の読解を開始するところまで歩みを進めることができた。 さらに、ベスキのマドゥライ・ミッションにおける位置づけをおこない、バラモン化による宣教の道を模索したロベルト・デ・ノビリとは異なる、パンダーラ・スワーミとしてのベスキの宣教方法と文学活動の繋がりを探究する方向で研究を進捗させている。 今後は、資料のさらなる収集を進め、データ化するとともに、近代直前のインドにおける歴史意義を探りつつ、諸作品の詳細な読解と分析とに進みたい。
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