本プロジェクトは、近代インドの黎明を控えてのインドにおけるヨーロッパ系キリスト教宣教師の貢献を、彼らの「文化適応・文化受肉(inculturation)」という手法を軸に検討し査定・評価しようとするものである。考察の中心に南インドに展開したイエズス会マドゥライ・ミッションを据え、そのタミル文学史上の事績を探ることで明らかにしようとする試みである。 テーマの性格上、研究資料の蓄積を日本に求めることは不可能であり、当のインドでも散逸したり保存状態や利用の便が劣悪のため、欧米の研究機関や図書館・文書館も念頭に入れて資料を渉猟した。さたに、昨年度はシンガポール国立図書館に集積された、アジア諸国のキリスト教関連の二次資料も多く収集することができ、研究のパースペクティヴの拡張に見通しを得ることができた。 本年度は、前年度に読解を開始したイタリヤ出身のイエズス会士であるジュゼッペ・ベスキの文学作品について、それらの背景をさらに丹念に検証し、宣教史上に位置づける作業を深めた。 ベスキは、ブラーフマン化することで改宗者を見出そうとしたデ・ノビリと異なる方法を用いた。すなわち、<パンダーラ・スワーミ>としてのベスキの宣教方法と文学活動の有機的関連を探究する方向でも研究を深化させてきた。 現在、冊子体の研究報告書の作成を鋭意進めているが整理された資料に基づく有意義な成果の一端を公表できるものと考えている。
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