研究概要 |
本年度は,8月にパリのギメ美術館とフランス国立図書館を訪れ,調査を行った.ギメ美術館においてはペリオ・コレクション中の観経変相の作例を中心に観察し,また同館のJacques Gies博士と意見交換を行った.国立図書館では,以前から研究していた梵文禅経Yogalehrbuchの写本を実見し,読みを確認してきた. 後者の成果については,本年度再刊されたDieter Schlingloff, Ein buddhistisches Yogalehrbuchの増補部分に収録されている.前者の成果については,2月に八王子で行われたシンポジウム「仏教美術史・考古学と仏教文献学の出会い」で発表を行った. 敦煌における観経変相は,以前から多くの研究者が関心を寄せてきたテーマでありながら,比較的年代の下がるものに関して信頼に足る詳細な研究は必ずしも多くなかったように思われる.そういった中にあって,近年の敦焼研究院による『阿弥陀経画巻』と,大西磨希子『西方浄土変の研究』は注目すべき成果である.これら両書においても指摘されているように,初期のものを除けば敦煌の観経変相には,その典拠であるはずの『観無量寿経』から乖離した点が少なからず見られるのであるが,私はその理由を,Sarah Fraser, Performing the Visual等も参照しつつ考察した.これらの乖離には,十六観の配列に関するものと,個々の観想の内容に関するものがあるが,いずれの場合にも画師達は先行する作品を参照しつつ誤解を重ねていったのだと思われるのであって,彼等が直接何らかの文献に拠っていたとは考え難いのである. なお,トゥルファン地域における初期の禅定窟であるトヨク第42窟を他地域の関係石窟と比較して,その機能と年代を明らかにしようとする研究を現在遂行中である.この点についてはもう少し調査を継続する必要があり,平成19年度以降の課題としたい.
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