研究課題
本年度は、前年度に引き続きチベット訳のテキスト化を目指し、その資料整理を行い、また、新たに発見されたサンスクリット語写本に関しての研究を行った。後者について具体的には、先ずノルウェーの収集家、マーティン・スコイエン氏所蔵の膨大な仏教写本の中に、『カルマ・ヴィバンガ』の断片が含まれていて、工藤によってそれら断片がつなぎ合わされ、テキストとして再構成された。このテキストはこれまで知られていた『カルマ・ヴィバンガ』のどのテキストとも一致せず、したがってネパール写本に伝わるテキストとは別系統のものである。その結果、この文献が原初的な形から発展していく過程にあるものとして、テキスト変遷史の中で重要な位置を占めるものであることを明らかに出来た。この成果は2005年8月29日-9月4日にロンドンにて行われた「国際仏教研究協会」主催の第14回大会にて口頭発表し(8/30)、サンスクリット語、チベット語、漢訳との対照テキストとともに提示し、公開した。その後ネパール国立古文書館所蔵のサンスクリット写本をデジタル化し、カタログを作成しているハンブルク大学の研究者(ディワカル・アーチャールヤ博士)から、工藤が先に出版したネパール写本の内、B写本の失われていたと思われた冒頭の3葉が存在すること、更にこれまで知られていなかった新たな写本の存在という情報がもたらされた。そればかりでなく、このテキストの最初の校訂者であるフランス人学者、シルヴァン・レヴィは現物の写本ではなくその写しを用いて校訂し、そのため多くの問題点を抱えていることは、工藤によって指摘されてきたが、その写しであるネパール人の手になるノートが現存することも判明した。そこで、上記研究者と共にB写本冒頭3葉をテキスト化し、それを共著の形で出版した(Diwakar/Kudo 2006)。全くの新資料であるもう一つの写本(紙写本。他は貝葉写本)は、詳細な調査の結果、実はB写本を写したものであることが判明し、しかもB写本の両端に欠損が生じた後に、冒頭3葉を含めて写したもので、時代的には16-17世紀のものであることもわかった。これによって現存するB写本のより以前の読みが回収できたばかりでなく、A写本とは異なる読みが同時に伝承されていたことを証明することができた(Kudo 2006、裏面の第3論文)。また、最初の校訂者が用いた写本の写しを元の写本の読みと対比させると、写しを作る段階でかなりの読みが「訂正」され、また「誤読」を混入させてしまったことも如実に分かった。このようにかつて用いられた資料を具体的に比較することによって、文献学的に原資料である写本そのものを誠実に研究する意義をあらためて示すことが出来た(Kudo 2006、裏面の第4)。
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Annual Report of The International Research Institute for Advanced Buddhology at Soka University for the Academic Year 2005 IX
ページ: 33-42
ページ: 43-60
ページ: 297-300
佛教大学綜合研究所紀要別冊・仏教と自然
ページ: 83-114