『スーヤガダンガ』(suyagadamga)はシッダーンタ聖典群の中でも最古層に属する聖典の一つと見做され、ジャイナ修行者の敬虔な信仰生活を題材に、主として異教の教義を論駁することに目的がおかれている。それ故、初期ジャイナ教の全貌を知る手がかりを与えてくれるばかりでなく、仏教をはじめとする同時代の異教徒の教義を知る上で極めて重要な聖典である。しかしながら、この聖典は最も難解なテキストの一つとして研究者には周知の事実である。 『スーヤガダンガ』は、『アーヤーランガ』や『ウッタラッジャーヤー』のように、全章にわたってヨーロッパ人学者による批判校訂本は存在しない。第1章から第5章までを和訳をするに当たって、これまでにインドで公刊されているSuttagame、註釈家シーラーンカのテキストやヴァイデヤの校訂本、さらにはヨーロッパ人学者による研究成果を最大限に活用・検討した。 テキストが難解であるため、研究者によって読解の方法に違いがみられる。ボレーは伝統的な註釈文献の解釈に基づいて第4章までテキストの校訂とドイツ語訳をしており、一方アルスドルフはそのような伝統にとらわれることなく韻律学の視点から第4章の批判校訂と英訳を行っている。これら先学の研究を注意深く参照し、清新な読み(異読)を取り入れ和訳に反映させた。 また、先に出版した初期ジャイナ教聖典と初期仏典の語彙索引と詩脚索引を有効に活用しながら、『ウッタラッジャーヤー』をはじめとする最古層のジャイナ教聖典群や『スッタニパータ』等の最初期仏教文献にみられる並行詩節や並行詩脚を見つけ、それによって、未解読で難解なアルダ・マガダ語彙の正確な語源も示唆した。さらに、地獄を主題にした第5章では、『ウッタラッジャーヤー』や仏典の『スッタニパータ』、それに『マハーバーラタ』等から共通内容の詩節を取り上げ提示した。
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