1.アラブ・イスラム教徒知識人による旅行記、および非イスラム世界での体験に関する文章の収集を行った。 (1)研究代表者がエジプトへ行き、エジプトの国立図書館、およびカイロ大学付属図書館を中心として、エジプト人知識人による旅行記、体験記の収集を行った。 (2)研究協力者の森晋太郎氏がレバノンを行き、ベイルート・アメリカ大学、レバノン大学を中心として、レバノン人知識人による旅行記、体験記の収集を行った。 2.入手した資料を基に、アラブ・イスラム教徒知識人の描き出した「他者」像の変遷を以下のように明らかにした。 (1)19世紀後半から20世紀前半にかけては、アラブ・イスラム教徒知識人の間で語られる「他者/自己」の境界線は、必ずしも宗教によるものではなかった。レバノン、あるいは「大シリア」の知識人の間では、アラビア語という言語を核とした自己像が新しい可能性として議論されていた。しかしながら、アラビア語への関心は、「コーランの言語」というアラビア語の価値への言及をひきおこし、この点において宗教的要素が介入してくるという、今日も観察される複雑な状況がこのときすでに生まれている。 (2)20世紀後半になると、それまでになかったアメリカという「他者」像が登場する。西欧列強諸国が、植民地主義者として政治的な敵とされながら、一方では、高度な近代文明を築き上げた担い手として、学ぶべき相手でもあったのに対して、アメリカは、西洋近代文明の最悪の継承者として、全否定される傾向が強かった。この移行を受けて観察されるのが、彼らの「自己」像におけるイスラムという要素が急浮上という現象である。 3.以上の成果を、3月に行われた第19回国際宗教学宗教史会議世界大会で研究代表者と協力者を含めたパネルを組み、発表を行った。
|