1.研究代表者がアメリカ合衆国、ハーバード大学に行き、ワイドナー図書館所蔵の資料を収集した。 (1)今回収集したのは、おもに20世紀前半に学生としてアメリカに滞在したアラブ人によるエッセーである。その中には後にアラブ世界を代表する知識人になった者も含まれるが、基本的にはアメリカ社会に対して新鮮なまなざしを向ける一般的なアラブ人である。一部はイスラム教徒ではなく、キリスト教徒であり、今のところまだ分析途中ではあるが、アメリカに対する見方に関して両者の間には、微妙ではあるが重要な差異があることが予想される。 (2)アメリカにおけるアラブ人コミュニティの発行する定期刊行物についても、一部ではあるが調査を行った。アラブ人アイデンティティが動揺しかねない状況に生きる移民のアラブ人にとって、アラブであることの徴が何に求められるかについて、コミュニティが行う行事のあり方などから確認することができた。 2.入手した資料を基に、アラブ・イスラム教徒知識人の描き出した「他者」像の変遷について、以下の点が明らかになった。 (1)肯定的なものであれ、否定的なものであれ、冷戦構造の時代にはアメリカはまずソ連と対立するものとして位置づけられ、されにその上で「われわれ」と対立する図式にあったが、それが現在では「われわれ」と「アメリカ」という二者の対立の図式に変わっている。 (2)女性が「われわれ」の文化、固有の伝統の象徴として表象されることが多く、そのことが女性から見た他者観に強く影響を及ぼしている。 3.2005年3月の第19回国際宗教学宗教史会議世界大会でおこなったパネルでの成果をまとめ、研究代表者および研究協力者が英文の論文として発表した。
|