宗教民俗学研究と宗教哲学研究をつなぐ「図像研究」の領域では、キリスト教のヨーロッパ展開におけるモデル思想と想定される「神秘思想」のモティーフを有するとみなされる「薬剤師としてのキリスト図像」について資料収集をした。 また「神秘思想」と関連する新たなキリスト図像モティーフの掘り起こしを目指すべく、ギリシア正教会のアトス山修道院を中心とした研究調査を実施した。ギリシア正教会の修道院の聖堂にはローマ・カトリック教会にはほとんどない「メタモルフォーシス図像」が多数確認された。「メタモルフォーシス図像」とはタボル山でのキリスト変容を描いた図像である。この「メタモルフォーシス(キリスト変容図像)」はギリシア正教会の「テオーシス(人間神化)思想」と深く結びついたものであり、「神秘思想」の系譜に明らかに連なるものであることを確認することが出来た。「メタモルフォーシス図像」が、「神秘思想」のモティーフを有する図像の系譜に加えられたことは大きな成果であった。 キリスト教のヨーロッパ展開のモデル思想と想定される「ドイツ・ミュスティーク(ドイツ神秘思想)」については、平成16年度で検討したエックハルトの「natura humana論」との比較を念頭に置いた上で、ヨハネス・タウラーの「キリスト論」について研究を進めた。 さらに図像学との関連では、現存するヨハネス・タウラーの墓標板に関して、従来のドイツ人研究者の解釈を批判しつつ、図像学的コンセプトが「洗礼者ヨハネ図像」を下敷きにした上で、タウラーの洗礼者ヨハネに関する説教のメッセージを図像化したものであるとの新たな解釈を試みた。論旨は平成17年度中に公表予定である。
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