本研究は現代の課題である「諸宗教共存」へ向けてこれまでは必ずしも知られていなかったキリスト教の「自己相対化の営み」にヨーロッパにおけるキリスト教土着化の同化・異化の観点から光を当てるものである。 祝祭・民間習俗の中で用いられている「キリスト図像」を広く収集し、その図像モティーフを解析し、さらにその中で、「神秘思想」と密接に関係する「キリスト図像」を選び出し、そのような「キリスト図像」の指し示す「キリスト理解」を手がかりにして「神秘思想」における「キリスト論」を詳細に検討することを試みるものである。本研究は、以上のような作業から浮かび上がるキリスト教の「自己相対化の理論」を「諸宗教共存」という現代的課題へ向けて明確に跡づけすることを目的とする。 研究最終年度である本年度は宗教民俗学研究領域の調査として、オーストリア、スロヴァキア、オランダにおいて現地調査、資料収集を行うことができた。 とくにドイツ神秘思想の研究領域では、ドイツ神秘思想を東西のキリスト教に分裂する 以前のキリスト教信仰の根本動機ともいえるテオーシス(人間神化)思想の伝統に位置づける研究をまとめることができた。中世ドイツのドミニコ会士、マイスター・エックハルトの「キリスト論」がキリスト教の「自己相対化の営み」の好例として提示することができたと考える。これらの研究は学会シンポジウム等で発表し、それに基づく意見交換を他の研究者と交わすことができた。
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