2005年8月から9月にかけて、台湾花蓮県において、フィールドワークと文献調査、ならびに文献複写をおこなった。 2004年にタイヤル族から分離し、ひとつの民族として認定されたタロコ族の民族的アイデンティティの動向に関して、花蓮県を中心に調査した。今回特に注目したのは、主にキリスト教長老教会を中心に、キリスト教の台湾土着主義ともいえる本地化の動きが、台湾先住民族の民族的アイデンティティの高揚といかにかかわっているのかという問題である。この問題は、単にタロコ族だけの問題ではなく、1970年代あたりからのキリスト教の世界的動向のなかで把握される問題である。こうした動きのなかで台湾先住民地域における長老教会の具体的な動向について調査した。つまり、それまで否定されていた土着的要素を長老派の各種儀礼等に導入することと、タロコ族におけるタロコ意識の関係について調査した。 19世紀末からはじまったタロコ族と長老教会との関係が、戦後早い時期にタロコ区会を成立させたこと、1953年にはタロコ語の聖書の翻訳が開始されたこと、ゆえに長老教会では早い時期からタイヤルとタロコが別の民族として取り扱われていたこと、長老教会では、タロコという名称が早くから使用されていたこと、こうしたキリスト教長老教会によって、タロコアイデンティティがますます強くなっており、それは今日のタロコによる民族運動の求心力になっていること、そうした動きとキリスト教全体からみた本地化の動きを考察した。 こうした調査、研究成果をもとに、2005年9月、関西大学でおこなわれた日本宗教学会第64回学術大会で、「台湾先住民タロコ族の民族認定要求運動とキリスト教」という演題で発表した。 また、日本の台湾植民地政府が、タロコという地域と民族を把握した「太魯閣討伐」とそれをおこなった台湾総督佐久間左馬太に関しても調査をおこない、タロコ族アイデンティティを考察した。
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