近代の「学知」そのものの成り立ちが反省的に振り返られつつある現在、日本の「内部」を理念的に構築すべく、また近代日本の成り立ちを史的に実証すべく構成された「日本思想史学」が、どのような歴史的状況下に成立し、変容してきたかを、アジア地域と近代日本の関わりを視野に入れて明らかにし、かつ、戦後世界アジア諸地域における個々の「思想史」構築の運動がいかになされつつあるかを、比較・対照的に検討することを目的とする本研究は、今年度を第1年度として4年間にわたる調査、分析に基づくものである。今年度は主として、日本における文献収集、予備的調査・報告を行い、かつ海外でのシンポジウム報告、台湾での現地調査1回を実施した。 予備的報告として、16年春に北京で開催された国際シンポジウム「儒教と東アジアの近代」(中国社会科学院主催)において、「近代日本における思想史学の成立と儒教への視点」と題する報告を行い、近代の「学知」として「日本思想史学」をいかに捉えるかという問題設定から、なかでも近世思想への視点のあり方の問題を発掘し、さらに、問題をいかに東アジアの視点に広げるかという課題を提示した。「対話する思想史学」の必要性と、その開拓に向けた努力を、いかなる地点から進めていくかという見通し的な報告を行い、会場では活発な意見交換がなされた。 研究成果としては、『近代日本の成立-西洋経験と伝統』(共著)を17年初頭に刊行した。その中では、特に明治期日本のナショナリズムの形成過程と「アジア」への視点の変容を相関的に捉え直し、福沢諭吉、樽井藤吉の一件相反する「アジア」認識に共通する問題性を指摘した。また、「日本近代知識人の成立と儒学の「知」」(『季刊日本思想史』66、所収)を公刊し、近代知識人という社会的存在の発生、成立と、彼らによる思想史的自己把握が相関して展開した過程を徳富蘇峰等の思想言説の分析から明らかにした。その他いくつかの報告を公刊した。
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