本年度は、本研究前半段階の第2年度として、研究の基盤的部分の構築と、問題領域の明確化を以下の内容で行った。また、前年度に引続き、東アジア諸地域における「思想史学」構築の状況を、韓国と中国において実地検証した。 (1)「思想史学」が「近代の知」としていかに成立し、現在の私たちの意識に連続しているかに関して、近代日本において最初に「哲学史」「思想史」を構築した井上哲次郎の仕事について具体的分析を行い、その結果を井上哲次郎研究会(於・立命館人文科学研究所)において報告した。また、近代日本における「学知」の成立に関しては、国民国家の制度に深く規定される「知」の内実を具体的に検討し、その結果を著書等で公開した。 (2)「日本思想史学」が、その構成において日本の「アジア」認識といかに関わっていたか、そしてそれを、現在の脱国民国家の潮流の中でいかに読み説くべきかについて、竹内好の問題に即して検討し、その結果を公刊した。 (3)「日本思想史学」が、その形成過程で近世思想をいかに意味づけたかについて、それを広く近代東アジアにおける知的経験として位置づけて分析し、その結果を国際シンポジウム(中国延辺大学・韓国嶺南大学)で公表し、諸外国の研究者との討議を行った。 (4)北京において資料収集調査を実施し、現代中国における「中国哲学史」と「中国思想史」成立の様態と当事者の意識を、現代知識人の「知」の内実に関わる問題として検討した。 以上のような多方面からの検討と成果を踏まえ、来年度は本研究後半段階の1年目として、「近代の知」としての「日本思想史学」成立に関する全体的構想を提示し、また、それを近代東アジアの中で意味づける作業を、引続き行う。
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