本研究の第一の成果は、19世紀末の思想展開における相互作用概念の重要性を究明することができたことである。ディルタイは、相互作用論的契機と人間本性論的契機から自然と社会とを総合的に捉えようとしたが、ジンメルは、後者の契機を落として、相互作用からなる人間社会の自律性を承認した。これによって、社会は精神物理的統一体としての人間本性という基礎から独立し、それを対象とする社会学は、社会という独立した相互作用領域を対象とする独自の科学とみなされるにいたる。ドイツにおける文化哲学、文化学の生成にはこのような視座の転換があったものと考えられる。第二の成果は、ウィリアム・ジェイムズとドイツの思想家の比較研究により、ドイツ思想の特質を究明できたことである。ウィリアム・ジェイムズの思想には、ディルタイと同様に人間本性論的契機層(感情の合理性論)があり、それがかれの多元主義を深層において支えている。それに対して、ディルタイ後のニーチェ、ウェーバーに代表されるドイツ思想においては、人間本性の虚構性が強く意識されると共に、認識のパースペクティズムが強く押し出され、文化における権力的契機が重視されることになる。第三の成果は、以上のドイツ思想をヒエラルヒー解体後の社会的紐帯をつくりだす文化言説とそれへの批判としてとらえる視点を、ハーバーマス、エリアスなどの業績を参照しつつとりまとめたことである。文化言説は、階層秩序における人間の内面的教養を意味することばであったが、やがて階層秩序解体後の人間社会の紐帯を意味することばへと転換を遂げた。以上、世紀転換期の思想史を構成する相互作用、人間本性、文化のトリアーデを本研究は究明した。
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