ジョイ・A・パルマー編(須藤自由児訳)『環境の思想家たち』上、下、(平成16年、みすず書房)をはじめとして欧米等の環境思想史関係の文献(邦訳書)を読み進めるとともに、本研究の前提である「日本環境思想史の構想」(長崎大学環境学部編『環境と人間』、九州大学出版会、平成16年3月刊、所収)を踏まえ、熊沢蕃山から南方熊楠に至る日本環境思想史を構成する個別思想家等の環境思想の把握に努めてきた。その過程で認識を新たにしたことは次の2点である。 第1は、安藤昌益及び田中正造の思想に明確に見られるように、環境思想の重要な内容として平和(戦争放棄・軍備撤廃)に関する所説を位置づけることである。戦争が環境破壊をもたらし、環境と共生する人間生活を破壊するものである以上、平和思想の環境思想の重要な内容であることは論をまたない。 第2に、沖縄県立図書館所蔵の蔡温(具志頭親方文若)関係の資料調査を行い蔡温の本格的研究を開始したことにより、改めて蔡温研究さらには琉球・沖縄思想史研究の重要性を下記の2点から痛感した。第1にこれまで研究してきた陶山訥庵の思想(環境思想にとどまらない)と蔡温の思想を比較することの重要性である。それは2人が生きた17世紀後半から18世紀前半(2人は同時代と言ってよい)の対馬と琉球の地理的・政治的位置とも関連しているし、2人の思想の主軸である儒教思想の異同とも関連している。第2に、従来の日本思想史研究は北の北海道(アイヌ)及び南の琉球列島における思想的営為をほとんど無視してきたが、蔡温研究は琉球・沖縄思想史を組み込んだ新たな日本思想史研究(日本思想史の再定義)を要請することである。
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