(1)平成16年度は、本研究計画の初年度にあたる。本年度は先ず、西洋における物語る絵画の歴史的変化、つまり中世ミニチュア挿絵やステンドグラスから、ルネサンス・近代の歴史画へと至る歴史的変化をリアリズムへの展開と、語りの様態の変化に注目して記述・分析することをめざした。そのために、物語絵画にかんする美術史の領域でこれまで蓄積された研究成果と、また絵画の物語を観者の視点から受容美学的に分析しようとする1980年代以降のWolfgang Kempらの研究成果、さらには「物語る絵」の現代版である映画理論にかんする文献を収集し批判的に検討した。 (2)こうした物語絵画についての理論研究にもとづいて、つぎに小説の挿絵のナラトロジー的分析に着手するためには、なお多くはない挿絵にかんする諸文献と、これもほとんどは直接に挿絵が掲載された小説本や新聞・雑誌の挿絵図版の収集にも着手する必要がある。とくに西洋の活版印刷にはじまり近代小説へと至る挿絵図版については、今年度は主として大英図書館に滞在し、集中的に挿絵を中心とする文献と図版の調査・収集にあたり、満足すべき成果を得た。また、すでに準備段階で相当数収集しているわが国の明治期以降の挿絵図版をさらに充実させるため、いくつかの主要大学図書館を中心に調査し、収集した。またこうして収集された図版をデジタル化し、整理・保管する作業にあたった。 (3)上述の研究成果として、今年度はリオデジャネイロでおこなわれた第16回国際美学会議で口頭発表("Is Visual Metaphor Possible?")をおこなった。また、それをふくめて、「研究発表」にあげた三つの論文を公刊した(既刊1編、予定2編)が、これらもすべて本研究の成果である。
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